うみねこのなく頃に EP5真相考察
EP5 End of the golden witch
---------------------------------------------
まず初めに、EP5からは実質的に解答編という事もあり、ベアトのゲーム盤であるEP1~4のエピソードを解くための思考の方法を解説した部分が結構多く、事件部分は正直あまり重要とは言えない。EP5の事件は最終的にヱリカの説と真相に至った戦人の説が同時に成り立つと本編で語られているが、ここでは戦人の説での事件の考察を行う
事件の流れ
事件前日にボートより転落し、六軒島に漂着した古戸ヱリカという人物が現れる。事件前日に戦人とヱリカが碑文を解き、黄金を発見。一族に発見の旨を伝える。
黄金の発見により、緊急の親族会議が行われ、この時夏妃が自室に戻り「19年前の男」と名乗る人物からの脅迫を受け、部屋でそのまま就寝
食堂での親族会議にて謎のノックと魔女の手紙が出てくる。
翌朝ゲストハウスで譲治、真里亞、楼座、朱志香の死体が発見。屋敷でも使用人室で源次の死体が発見。夏妃は脅迫電話にて蔵臼の声を聞くが安否不明。
脅迫電話の指示通り、事件日の昼に夏妃は1Fの客室のクローゼットに隠れる。秀吉が入ってきて何者かに殺害される。夏妃は一同が移動したのを見計らい自室に戻ろうとするが、2Fへ向かう途中ヱリカに見つかり客間に行く。
ヱリカの推理により夏妃が犯人であると断定される
その後真相に至った戦人により、異なる事件の真相の提示があり、唯一の真相が確定できなくなり、魔女幻想復活。戦人がゲームマスターになり、EP5終了
ポイント
・探偵古戸ヱリカ
まずはヱリカの扱いについて本編中の赤字を参照する
「古戸ヱリカは探偵であることを宣言するわ。」
「探偵は、犯人ではなく、その証明には如何なる証拠も必要としない。」
「探偵は犯人でない」
「古戸ヱリカは犯人ではない」
「古戸ヱリカは、これまでのベアトのゲームに影響を与えない。」
「これまでの世界には存在しないし、影響も与えないわ。」
「(島の人数は)古戸ヱリカが1人増えただけ。それ以外の在島者の人数は、これまでのゲームとまったく同じ。」
「つまり、今、この客間にいる人数が、在島者すべての人数、ってことになるわね。」
このように新たに現れたキャラクターであるヱリカが探偵であり犯人ではなく、在島人数もいままでの数から1人プラスされただけだ。大事なのはEP4までは戦人が探偵だったが、EP5ではヱリカが探偵であり、主観の保障がされるのはヱリカだけという事だ。様々な部分でEP5は戦人の主観描写が現れるが、EP5の戦人の主観は嘘が混じるという事を覚えておこう。
・上記に関連する戦人の人数確認描写
作中序盤で客間に六軒島にいる全ての人間が集まった場面で、個別の名前を挙げ確認がされているが、この時に「戦人の主観」に切り替わり描写されてる場面がある。ここで探偵ヱリカがいる場面で嘉音と紗音が同時に存在しているが、この場面は主観を偽る事が可能な戦人が見ているため、この描写はうのみにできない。EP5全体を通して、紗音と嘉音が同時に出てくるケースは非常に多いが、唯一主観を保障されているヱリカによる主観描写がほとんどないので、実際にヱリカが2人を同時に観測してるのか分からない。つまり、EP4までと同様に探偵の前に同時に紗音と嘉音は現れない、という原則がここでもまた成立しており、ヱリカに観測されたとは言えない。
・夏妃を脅す19年前の男
度々夏妃に電話をかけてくるこの人物だが、事件前日に夏妃に自室でそのまま電話を取らず、誰にも電話せず、そのまま朝まで寝るように指示している。あそこが第1の晩の殺人の時の夏妃のアリバイを無くすための真犯人の工作であり、事件の大筋の流れは19年前に崖から落とされた赤ん坊が実は生きていて、夏妃に復讐するために事件の殺人容疑を夏妃になすりつけるというシナリオだ。夏妃が好きな季節を秋だと知っていた場面は、通常複数のカードを部屋に仕込んでいて、答えに合わせてそこを探させると考えるが、今回の場合は夏妃が語った「紗音にしか語っていない」というセリフそのままだろう。
・19年前の赤ん坊
この夏妃によって語られた赤ん坊は福音の家より連れてこられたと語られているが、実際は九羽鳥庵のベアトと金蔵の間に生まれた子供であり、崖から落とされた赤ん坊は南條先生によって助けられ、一命を取りとめ生きていたヤスの事だ。この真相部分の伏線としてEP5に登場したものと思われる。筋書きとしてはベアト人格のヤスによる夏妃への復讐だ。本来ベアトがゲームマスターの場合は事件の目的はヤスの2つの人格の恋に決着をつけるため、事件を「手段」として使ってるだけなのだが、このEP5はその根本が大きく違い、事件は復讐のために起こされている。また、碑文が解かれたら事件を中断すると保証したベアトのゲームと違い、ゲームマスターのラムダは碑文が解かれても事件を続けている。このゲームマスターによるゲームの違いも如実に出てきているエピソードだ。
・戦人の推理とヱリカの推理
最終的に並び立ってしまったこの2人の推理「戦人犯人説」と「夏妃犯人説」だが、これは以下の赤字
「戦人くんは犯人ではありませんよ。戦人くんは誰も殺してはいません。これは全てのゲームにおいて言えることです。」
「右代宮夏妃は犯人ではない!」
そもそもこの赤字に抵触しており、作中で披露された推理は無効だ。つまり、作中では並び立つ真実のせいで唯一の真相が特定できなくなり、その結果魔女幻想が復活したように描写されているが、そもそも真相が特定されていなかったという解釈も可能だ。むしろ真の理由はこっちであり、戦人犯人説はあくまでもヱリカの説を唯一の真実にさせないためのものだろう。
では事件部分の考察にいこう
【食堂での謎のノックと手紙事件】
「親族会議以前に、ヱリカ、譲治、朱志香、真里亞、南條、郷田、熊沢は、屋敷より退出し、ゲストハウスへ移動したものなり。」
「残りは、蔵臼、夏妃、源次の3人のみが2階廊下におり、それ以外の全員は食堂におりしこと、申し上げ奉る。」
「24時の時点で、2階廊下にいた、蔵臼、夏妃、源氏の3人と、食堂にいた全員以外の、一切のニンゲンは屋敷内に存在しなかった」
「屋敷以外の全員は、親族会議開始後、屋敷内にて何を行うことも不可能なり。」
「配膳車に手紙が触れたことはなきと知り給え。」
「廊下天井に手紙が存在したことはなきなりや。」
「蔵臼、夏妃、源氏の3人に加え、食堂の全員もまた、ノックしていないこと、申し上げる。」
「このノックとは、ノック音を生み出す、直接的、間接的、意図的、無意識的、偶発的な全てを含めるものなり。」
「つまり、屋敷にいた人物全員が、ノック音の発生源とは成り得ない、という意味デス。」
「……そしてこの “全員” とは、誰も把握していない、観測されていない人物であったとしても含みマス。」
「24時の時点で、屋敷以外に存在するのは、ヱリカ、譲治、朱志香、真里亞、南條、郷田、熊沢のみである」
「蔵臼、夏妃、源次の3人は、その手紙に触れてさえいない!」
「食堂の全員の誰も、いいえ、もっとシンプルな言い方をするわ。24時の時点で屋敷内にいた誰一人!あの手紙を廊下に置いたものはいないわ。」
「屋敷内の誰一人、手紙を廊下に置いた者はいない。それは直接的、間接的、意図的、偶発的、無意識的、全ての概念でよ。」
「蔵臼、夏妃、源氏の3人は、ノックをしていない!」
「これは、扉だけはノックしていないという、限定的な意味じゃないわよ?音が伝わる柱だろうと録音したカセットテープの再生ボタンだろうと、そのノック音を生み出したことは断じてないという意味!無論、直接的にも間接的にも、意図的にも偶発的にも、無意識的にもね!」
「ノックは、人が手で扉を叩くもの」
「全ての人物は、ノック音を誤認することはない。」
「ノック音を誤認しない、ということはつまり。ノック音によく似た他の音を、ノック音と勘違いしたりはしない、ということよ。」
「柱を叩くとノックに似た音がする、なんてのもアウト。」
「ノック音をカセットテープに録音したとしても、それはもはや “ノック音を録音したテープの音” であって、ノック音ではない。だからこれもアウト!」
「そしてノックは、直接扉の前に立ち、手で扉を叩く行為を指す。」
「つまり、実際にあの扉を叩いたノック音を、全員は正確に識別し、絶対に聞き間違えないということよ。」
「そして、彼ら(※食堂の人物全員)は誰もノック音を誤認しない。」
「蔵臼、夏妃、源治の3人はノックにかかわっていない。それ以外の人物は誰も屋敷内に存在もしない。」
「あの扉を直接叩く以外のあらゆる音を、ノックと誤解することは絶対にありえないということ!!」
赤字を見ればあらゆる可能性を否定されているのが分かる。つまりノックなど最初からなかったのであり、食堂にいた全員が「ノックの後手紙を発見した」という共通の嘘をついてたと思われる。つまり食堂にいる人物が全員結託してると言う事であり、事件の共犯関係を考える場合にも非常に重要だ。
【第一の晩の譲治、真里亞、楼座、朱志香、源次、蔵臼の殺害】
「譲治、朱志香、真里亞、楼座、源次の死体は、誰が見ても、一目で死亡が確認できる」
「死んだフリなど絶対にありえぬ、誰もが一目で死亡を確認できる死体であるわ。」
「譲治、朱志香、真里亞、楼座、源次の5人はちゃんと死んでるわよ。」←5日の24時の時点での赤字
「犠牲者は全員、他殺なりや。」
「全ての死体は、決して検死を誤らぬ」
「登場人物以外の死体は登場しない」
「右代宮夏妃は犯人ではない!」
「右代宮蔵臼は犯人ではない。そしてとっくに殺されてるわ。あんたに電話で声を聞かせた直後にね?」
「譲治は死後、遺体は一切、移動されていない!」
「朱志香は死後、遺体は一切、移動されていない!」
「真里亞は死後、遺体は一切、移動されていない!」
「楼座は死後、遺体は一切、移動されていない!」
「源次は死後、遺体は一切、移動されていない!」
「蔵臼は死後、遺体は一切、移動されていない!」
「よって、遺体発見後に遺体が消失することはありえないッ!!貴様の推理、遺体は金蔵が運び出したは、破綻する!」
第一の晩について、朝の発見時よりも前の部分については、本編中の内容の通り、夏妃以外には不可能なもので、なおかつ赤字で夏妃は犯人ではないと明言されてるので、その部分の赤字は全部省かせてもらう。
この第一の晩のゲストハウス部分だが、探偵であるヱリカは毛布をかけられ隠されている死体を一切検証していないのが分かる。現場で南條に検視結果を聞いてるだけであり、自分の目で死体を見てないのだ。これは主観が保障されている探偵が死体を見てない上に、赤字により死後遺体が動かされていないとされてる以上、この時点では生きていてその後フリーになった時に別の場所で殺害されたものと思われる。一同が結託して死体を見つけたと狂言殺人を演じているという事であり、ヱリカはそれを見抜けずうのみにしてしまった。
使用人室の源次については、ヱリカの封印が朝の時点まであったとされてるので、源次は朝の時点では生きていた。嘉音と熊沢が死んでいたと嘘を言ってるという事であり、死体が消えたのもゲストハウス同様に、後で犯人がフリーになった時に別の場所で殺したという事だ。ここも狂言の一貫だ。
蔵臼については、夏妃が電話で声を聞いた後に殺されたという事だが、夏妃が蔵臼の声を聞いた時に、電話を代わるのに手間取ってなにやらガサゴソしている様子が描写されている。EP5で親族会議の時に議事録を音声で録音していた「オーディオ」を使って録音された蔵臼の声だったのだろうと推測される。電話口で犯人の名前を叫ばれる可能性があり、実際に蔵臼に電話を代わったとは思えない。実際は夏妃にオーディオ録音の声を聞かせた後に、屋敷の外の森かどこかで殺したものと思われる。この蔵臼の殺人については、真犯人が秀吉殺害時に夏妃にクローゼットに隠れるよう命令するための脅迫用の布石であり、用がなくなった途端狂言殺人部分とは別に、すぐに殺したものと思われる。
【1F客室での秀吉の殺害】
夏妃の主観描写を見ていると、部屋に一人で入ってきた秀吉が突如何者かに襲われ、その後犯人が立1ページ目へ
ち去った様子もないのに他の者が集まってきており、その後ヱリカがまたもや秀吉の死体を確認せずに死体を移動させている。この部分も一連の狂言殺人の一貫であり、夏妃が聞いていたのは秀吉の演技だった。実際は殺されておらず、第一の晩同様その後犯人がフリーになった時に実際に殺したものと思われる。
ゲーム盤部分の解答は以上であり、全体として狂言殺人のため夏妃と蔵臼以外が全て結託して嘘をついてるという、あまりに共犯者が多いゲーム盤だと言える。しかし、ゲーム盤の謎よりもEP5は非常に重要な伏線が多いエピソードであり、うみねこ全体の真相とも関連のあるヒントが多く出ている。その部分の考察にいこう。
・本編中で碑文が解かれた場面
ヱリカと戦人が碑文を解き黄金を発見しているが、この時に非常に重要なセリフがいくつか出ている。まず、ラムダが碑文について「難易度が高い謎じゃないと意味が無い」と言っているが、これはヤスの目的と関連していてベアトが事件を起こすのは自身の2つの人格「紗音人格」と「ベアト人格」について、この2つの人格の恋について決着をつけるためであり、その目的のため事件を「手段」として使っている。可能性として事件で起きる確率が非常に低い「碑文が解かれる」と「事件の謎が解かれ、真相を暴かれる」の2つのどちらかが出る事が目的で、ラムダの言う「難易度が高い謎じゃないと意味が無い」というのは、どちらの人格の恋が成立するのか試すルーレットの目として、共に奇跡的確率で出る公平さが必要なためだ。「碑文が解かれる」と「事件の謎が解かれ、真相を暴かれる」は共にルーレットの目として出る確率は低く、お互いに公平さもある。
「碑文を誰かが解くことで、この子が何かを得ることはありません。」
「もともと黄金郷の黄金はこの子のもの。見つけさせる必要も、横取りする必要も、何もありません。」
「碑文の謎が解けても解けなくても、この子にとって得るものは何もありません。」
「碑文が解かれようと解かれなかろうと、ベアトが何かを得ることはない。」
この赤字だが、ベアトにとって碑文が解かれる事の意味はない。意味があるのは紗音人格にとってなのだ。本編中の説明に「魔女を天秤に見立てた時、片方には碑文の謎、片方には碑文殺人が乗る」「碑文殺人と碑文の謎の価値はベアトにとって同じもの」「じゃんけんと同じで、どちらに勝利が傾くかが目的」とある通り、ベアトにとって大事なのは碑文が解かれ紗音人格の恋が成立するか、碑文殺人の真相を解かれ、戦人が真相に至った結果、ベアトの恋が成立するのか、その結果が大事であるという意味だ。それを踏まえた上でEP5を見ると碑文を戦人が解いていて、頻繁に「よりによって戦人が」というセリフが出てくる。戦人との恋を成立させたいベアトにとって、戦人が碑文を解いて紗音人格と譲治との恋が成立するというのは何とも皮肉な結果である。
・謎の男
夏妃にかかって来る謎の男からの電話だが、最初は源次が繋いでいたのに、直接夏妃の部屋にかかってきていた場面がある。あれは内線により真犯人が電話をかけている事を表している。犯人は屋敷内にいる事の伏線だ。
・夏妃の赤ん坊とベアト
夏妃が故意か事故か、赤ん坊を使用人と一緒に突き落としてしまったという場面で、ベアトが「赤ん坊は妾が殺した!」と主張して殺人を自分のせいにしている場面がある。この描写はEP4までのベアトのゲームと同様、人間が犯人である事件を魔女の仕業とする事で人間を庇おうとしてるベアトの行為を表したものだ。なぜベアトは度々魔女を認めさせようとしてたのかは、戦人が実際の六軒島での真相で傷つかないようにするためと思われる。
・ベアトの気になるセリフ
実はEP5で非常に重要なセリフをベアトがさらっと言ってる部分がある。本編より抜粋するが「赤で19人目が許されずとも、そこに19人目を紛れ込ませるなど、妾ならば魔女ならば、造作もなくやってのけるがな」というものだ。以前にEP3で解説した在島人数の赤字にベアト人格のヤスが入ってない理由の伏線だと思われる。
・ロノウェの気になるセリフ
金蔵の部屋での論戦の後に、戦人について語るロノウェのセリフで、上と同様重要な伏線部分と思われるセリフが出る。ここも本編から抜粋する。「右代宮金蔵の破天荒を記せば、書斎の魔導書の数に負けぬ長い波乱の物語が描けるでしょうな。その次の当主(EP5で碑文を解いた戦人)の物語も記す価値が大いにありそうだ。いえいえ、もう記しておりますとも。それはもう長い長い物語に。ぷっくっくっく」この部分だが、うみねこの各EP1~8は作中作であり、98年の世界に存在しているワインボトルのノート片と八城十八による偽書であるという考え方の伏線となる部分だと思われる。EP6の98年世界に八城幾子が登場し、EP3~6が自分の作品であると言ってる場面もあり世界構造の考察で非常に重要になる伏線だ。
・黄金の真実
ベアトは戦人に真相に至って欲しくてゲーム盤を作った。戦人がベアトのゲーム盤の真相に至る事は約束を思い出す事でもあり、さらに戦人がベアトの思いを受け止めたのなら「ベアトと戦人の恋の成立」を意味するとも言えるだろうが、細かい話をすると、戦人が魔女のゲーム盤の真相に至る事というのは、魔女幻想が消え去る事とイコールでもある。戦人が真相に至るとベアトは魔女ではいられなくなってしまうのだ。しかし、もし戦人が本当の意味で真相に至ったのならば、EP3の後半の展開と同様に「ベアトを魔女と認める」と黄金の真実を発動する事でベアトは魔女のまま戦人と結ばれる事ができる。EP5の戦人が真相に至った時に戦人が黄金の輝きに包まれていた事を覚えているだろうか。ラムダが戦人の黄金の輝きに驚いていたし、ワルギリアも「その輝きこそが戦人君が本当の意味でベアトを理解した事の証」と語っている。戦人がベアトを黄金の真実で魔女だと認めてあげる行為というのは、「真実を魔法で優しく包み込む」という意味合いでもある。戦人が本当の意味で真相に至る事というのは、戦人が魔法の成り立ちを理解する事でもあるのだ。魔法を理解しないとベアトを救う事はできないだろう。この魔法の思想というのはEP4の真里亞の幸せのカケラを見つける魔法でもあり、EP8で戦人があのようなゲーム盤を作って縁寿を包み込もうとした魔法でもある。
・EP5の意味
EP5はEP4で戦意を失ってしまったベアトに代わり、ラムダデルタがゲームマスターとして登場する。ベルンカステルが人間側であり戦人は彼女達のゲーム盤の乗っ取り行為を嫌悪し、途中まで不参加を決めているが、後半のワルギリアのセリフにあるように、本来ベアトが望まないと2人は呼べないと語られている。ベアトが望んだからこそラムダとベルンがやって来たのであり、勝手にやってきたのではないのだ。EP5で大事なのは、EP4の一件でベアトは戦人が約束を忘れていた事によって、完全に戦意を失ってしまってる点だ。しかし、かといってベアトは何をするでもなく、庭園でぼーっとしている。ベアトは戦人が約束を忘れていた事に失望したものの、まだ「戦人が事件の真相に至り、自分の気持ちや約束の事を思い出してくれる」という希望を捨てきれず、その迷いがまだある状態だ。そして、戦人はベアトの出題を「ミステリーとして解ける問題」だとは認識せずに、未だに「未知の人物X」だとか「未知のトラップX」などというアンチファンタジーとして認識し、真剣にミステリーと信じてベアトの問題に向き合っていない。
つまり、EP5の状況は真剣にミステリーに向き合わない戦人と未練を捨てきれないベアトとの間で、ゲーム盤がこの先どんなに続こうと永遠に決着がつかない状況に陥っていた。ベアトがラムダとベルンの2人を呼んだのは、これに決着をつけ「互いを苛む拷問」を終わらせるためなのだ。
ラムダは予想通りに本来ならばベアトがやらないような事件を作ってきた。夏妃を事件の犯人にした話を作った理由は、戦人がベアトの出題をミステリーとして見ずに、ずっと「アンチファンタジー」として接してきた態度や甘えを断ち切るためだ。夏妃がああいった形で事件の犯人にされてしまったのを見て、戦人は事件をミステリーとして解釈し、別の真相を構築する必要に迫られた。しかし、戦人はそんな場面でもまだ「未知の人物X」というような手段で戦っていて、最終的にドラノールの剣によって貫かれ、死亡(ゲーム盤での思考停止の意味)してしまう。ラムダによりゲーム盤を追放された戦人のあの時の状態は、ノックスの十戒というミステリーの道しるべ的意味合いの剣で殺されていて、簡単に言うと「ミステリー的解釈で事件を解くという意思が無くなった状態」なのだ。上層世界のベアトにとって、戦人が約束を覚えていない場合、最後の望みだった「戦人が事件の真相に至った結果、約束を思い出してくれる」という可能性があの時完全になくなってしまったのだ。ベアトは戦人に事件の真相に至ってほしくて存在していたため、ベアトが存在する目的がなくなってしまい、その結果ベアトは戦人の事を完全にあきらめ死んでいった。それがあのEP5の場面の意味だ。
ベアトが死亡した後、戦人はノックスの十戒を頼りにベアトの事件を再度考察し、真相に至る。ほんのちょっとの差で戦人は間に合わなかった。戦人のあの絶叫は、事件の真相に至った結果、自分がヤスとの約束を完全に忘れていて、ヤスに拷問を課してたのが自分だったと知った。ベアトはそれに気づいて欲しくて、メッセージを事件に込め戦人に送っていた。その事に気付いた戦人の深い後悔がEP5から伝わってくる。戦人に真相を伝えられなかったベアトと、ベアトの真相に気付けなかった戦人の悲しいすれ違いの場面だ。ベアトは戦人が真相に至ってくれるまで待つという行為をやめ、ラムダとベルンのゲームで「魔女を認める」「人間犯人説で説明が付けられる」いずれかの決着を明確につけ、ドローゲームという今までの「逃げ」をやめ、どちらの勝利になっても結果を受け止めるという覚悟を決めたのだ。だが、結果は人間犯人説で戦人が思考停止し死亡、ベアトの気付いてほしかった真相にもベアトが生きてる間には辿りつけなかったのだ。
・EP5の意味を踏まえた世界構造の考察
上記のような長々としたEP5の意味を踏まえて、世界構造の部分も考えたい。このEP5は98年世界に存在する偽書であり、物語を六軒島から生還した十八が作っている。EP5でベアトが死んだ事と、戦人が真相に至った事は、98年世界で物語を作っている十八ともリンクしてるのではないだろうか。実際の六軒島での事件の真相の考察はEP7で詳細にやるが、EP7で語られた内容は真実であり実際の六軒島では碑文が解かれ、一族が殺し合いをし、戦人はヤスと逃げている。ヤスはボートから海に飛び込み自殺しているが、あの実際の六軒島では戦人にそもそもEP1~4のような事件の出題がされていない。それ以前に碑文が解かれて事件を中断しているのだ。つまり、戦人はあの六軒島の時点では真相に至っておらず、実際に真相に至ったのは記憶を失ってから幾子と一緒に暮らし、ワインボトルのノート片の内容を目にしてからだろう。十八は戦人の記憶を思い出しながら、世間で話題になっていたワインボトルのノート片を読み、事件を構成する要素などからEP5の戦人同様真相に至ったのだろう。しかし、EP5の戦人が間に合わなかったように、現実の十八が真相に至ったのも遅かった。六軒島での事件のかなり後に気付いたのだろう。それが反映されたのがEP5と考えられる。
・ワインボトルのノート片をヤスが海に投棄した意味
ヤスの動機部分は今まで断片的に語って来たが、彼女は事件を使って、自分の2つの人格の恋に決着をつけようとしていた。
「ベアトは、あなたに解いて欲しいと願って、解けるようにこのゲームを、……この物語の謎を生み出しました。」
「ベアトは、俺に解いて欲しいと願って、解けるようにこのゲームの謎を生み出した。」
この2つの赤字から分かるように、事件部分は戦人のために作ったものであり、事件の真相に至った結果、ベアト人格と戦人の恋が成立する奇跡を願ったものだ。しかし碑文が解かれ紗音人格と譲治との恋が成立した場合、ベアト人格は事件を起こす事が出来ず、戦人に何も伝える事が出来なくなる。ヤスがワインボトルを海に投げた理由は、奇跡的に何本かが誰かに拾われ、戦人が読んでくれて、真相に至ってくれる事を願ったものなのではないかと思われる。もちろん海に投げたワインボトルが誰かに拾われ、戦人にまで届く事は奇跡に近いだろう。しかし、ヤスはその奇跡を願ってボトルを投じたに違いない。ワインボトルのノート片の締めくくりの一文を思い出してほしい。
「これを読んだあなた。どうか真相を暴いてください。それだけが私の望みです。」
十八はヤスの願い通り、真相に至ったのだ。悲しいすれ違いの末に。
---------------------------------------------
まず初めに、EP5からは実質的に解答編という事もあり、ベアトのゲーム盤であるEP1~4のエピソードを解くための思考の方法を解説した部分が結構多く、事件部分は正直あまり重要とは言えない。EP5の事件は最終的にヱリカの説と真相に至った戦人の説が同時に成り立つと本編で語られているが、ここでは戦人の説での事件の考察を行う
事件の流れ
事件前日にボートより転落し、六軒島に漂着した古戸ヱリカという人物が現れる。事件前日に戦人とヱリカが碑文を解き、黄金を発見。一族に発見の旨を伝える。
黄金の発見により、緊急の親族会議が行われ、この時夏妃が自室に戻り「19年前の男」と名乗る人物からの脅迫を受け、部屋でそのまま就寝
食堂での親族会議にて謎のノックと魔女の手紙が出てくる。
翌朝ゲストハウスで譲治、真里亞、楼座、朱志香の死体が発見。屋敷でも使用人室で源次の死体が発見。夏妃は脅迫電話にて蔵臼の声を聞くが安否不明。
脅迫電話の指示通り、事件日の昼に夏妃は1Fの客室のクローゼットに隠れる。秀吉が入ってきて何者かに殺害される。夏妃は一同が移動したのを見計らい自室に戻ろうとするが、2Fへ向かう途中ヱリカに見つかり客間に行く。
ヱリカの推理により夏妃が犯人であると断定される
その後真相に至った戦人により、異なる事件の真相の提示があり、唯一の真相が確定できなくなり、魔女幻想復活。戦人がゲームマスターになり、EP5終了
ポイント
・探偵古戸ヱリカ
まずはヱリカの扱いについて本編中の赤字を参照する
「古戸ヱリカは探偵であることを宣言するわ。」
「探偵は、犯人ではなく、その証明には如何なる証拠も必要としない。」
「探偵は犯人でない」
「古戸ヱリカは犯人ではない」
「古戸ヱリカは、これまでのベアトのゲームに影響を与えない。」
「これまでの世界には存在しないし、影響も与えないわ。」
「(島の人数は)古戸ヱリカが1人増えただけ。それ以外の在島者の人数は、これまでのゲームとまったく同じ。」
「つまり、今、この客間にいる人数が、在島者すべての人数、ってことになるわね。」
このように新たに現れたキャラクターであるヱリカが探偵であり犯人ではなく、在島人数もいままでの数から1人プラスされただけだ。大事なのはEP4までは戦人が探偵だったが、EP5ではヱリカが探偵であり、主観の保障がされるのはヱリカだけという事だ。様々な部分でEP5は戦人の主観描写が現れるが、EP5の戦人の主観は嘘が混じるという事を覚えておこう。
・上記に関連する戦人の人数確認描写
作中序盤で客間に六軒島にいる全ての人間が集まった場面で、個別の名前を挙げ確認がされているが、この時に「戦人の主観」に切り替わり描写されてる場面がある。ここで探偵ヱリカがいる場面で嘉音と紗音が同時に存在しているが、この場面は主観を偽る事が可能な戦人が見ているため、この描写はうのみにできない。EP5全体を通して、紗音と嘉音が同時に出てくるケースは非常に多いが、唯一主観を保障されているヱリカによる主観描写がほとんどないので、実際にヱリカが2人を同時に観測してるのか分からない。つまり、EP4までと同様に探偵の前に同時に紗音と嘉音は現れない、という原則がここでもまた成立しており、ヱリカに観測されたとは言えない。
・夏妃を脅す19年前の男
度々夏妃に電話をかけてくるこの人物だが、事件前日に夏妃に自室でそのまま電話を取らず、誰にも電話せず、そのまま朝まで寝るように指示している。あそこが第1の晩の殺人の時の夏妃のアリバイを無くすための真犯人の工作であり、事件の大筋の流れは19年前に崖から落とされた赤ん坊が実は生きていて、夏妃に復讐するために事件の殺人容疑を夏妃になすりつけるというシナリオだ。夏妃が好きな季節を秋だと知っていた場面は、通常複数のカードを部屋に仕込んでいて、答えに合わせてそこを探させると考えるが、今回の場合は夏妃が語った「紗音にしか語っていない」というセリフそのままだろう。
・19年前の赤ん坊
この夏妃によって語られた赤ん坊は福音の家より連れてこられたと語られているが、実際は九羽鳥庵のベアトと金蔵の間に生まれた子供であり、崖から落とされた赤ん坊は南條先生によって助けられ、一命を取りとめ生きていたヤスの事だ。この真相部分の伏線としてEP5に登場したものと思われる。筋書きとしてはベアト人格のヤスによる夏妃への復讐だ。本来ベアトがゲームマスターの場合は事件の目的はヤスの2つの人格の恋に決着をつけるため、事件を「手段」として使ってるだけなのだが、このEP5はその根本が大きく違い、事件は復讐のために起こされている。また、碑文が解かれたら事件を中断すると保証したベアトのゲームと違い、ゲームマスターのラムダは碑文が解かれても事件を続けている。このゲームマスターによるゲームの違いも如実に出てきているエピソードだ。
・戦人の推理とヱリカの推理
最終的に並び立ってしまったこの2人の推理「戦人犯人説」と「夏妃犯人説」だが、これは以下の赤字
「戦人くんは犯人ではありませんよ。戦人くんは誰も殺してはいません。これは全てのゲームにおいて言えることです。」
「右代宮夏妃は犯人ではない!」
そもそもこの赤字に抵触しており、作中で披露された推理は無効だ。つまり、作中では並び立つ真実のせいで唯一の真相が特定できなくなり、その結果魔女幻想が復活したように描写されているが、そもそも真相が特定されていなかったという解釈も可能だ。むしろ真の理由はこっちであり、戦人犯人説はあくまでもヱリカの説を唯一の真実にさせないためのものだろう。
では事件部分の考察にいこう
【食堂での謎のノックと手紙事件】
「親族会議以前に、ヱリカ、譲治、朱志香、真里亞、南條、郷田、熊沢は、屋敷より退出し、ゲストハウスへ移動したものなり。」
「残りは、蔵臼、夏妃、源次の3人のみが2階廊下におり、それ以外の全員は食堂におりしこと、申し上げ奉る。」
「24時の時点で、2階廊下にいた、蔵臼、夏妃、源氏の3人と、食堂にいた全員以外の、一切のニンゲンは屋敷内に存在しなかった」
「屋敷以外の全員は、親族会議開始後、屋敷内にて何を行うことも不可能なり。」
「配膳車に手紙が触れたことはなきと知り給え。」
「廊下天井に手紙が存在したことはなきなりや。」
「蔵臼、夏妃、源氏の3人に加え、食堂の全員もまた、ノックしていないこと、申し上げる。」
「このノックとは、ノック音を生み出す、直接的、間接的、意図的、無意識的、偶発的な全てを含めるものなり。」
「つまり、屋敷にいた人物全員が、ノック音の発生源とは成り得ない、という意味デス。」
「……そしてこの “全員” とは、誰も把握していない、観測されていない人物であったとしても含みマス。」
「24時の時点で、屋敷以外に存在するのは、ヱリカ、譲治、朱志香、真里亞、南條、郷田、熊沢のみである」
「蔵臼、夏妃、源次の3人は、その手紙に触れてさえいない!」
「食堂の全員の誰も、いいえ、もっとシンプルな言い方をするわ。24時の時点で屋敷内にいた誰一人!あの手紙を廊下に置いたものはいないわ。」
「屋敷内の誰一人、手紙を廊下に置いた者はいない。それは直接的、間接的、意図的、偶発的、無意識的、全ての概念でよ。」
「蔵臼、夏妃、源氏の3人は、ノックをしていない!」
「これは、扉だけはノックしていないという、限定的な意味じゃないわよ?音が伝わる柱だろうと録音したカセットテープの再生ボタンだろうと、そのノック音を生み出したことは断じてないという意味!無論、直接的にも間接的にも、意図的にも偶発的にも、無意識的にもね!」
「ノックは、人が手で扉を叩くもの」
「全ての人物は、ノック音を誤認することはない。」
「ノック音を誤認しない、ということはつまり。ノック音によく似た他の音を、ノック音と勘違いしたりはしない、ということよ。」
「柱を叩くとノックに似た音がする、なんてのもアウト。」
「ノック音をカセットテープに録音したとしても、それはもはや “ノック音を録音したテープの音” であって、ノック音ではない。だからこれもアウト!」
「そしてノックは、直接扉の前に立ち、手で扉を叩く行為を指す。」
「つまり、実際にあの扉を叩いたノック音を、全員は正確に識別し、絶対に聞き間違えないということよ。」
「そして、彼ら(※食堂の人物全員)は誰もノック音を誤認しない。」
「蔵臼、夏妃、源治の3人はノックにかかわっていない。それ以外の人物は誰も屋敷内に存在もしない。」
「あの扉を直接叩く以外のあらゆる音を、ノックと誤解することは絶対にありえないということ!!」
赤字を見ればあらゆる可能性を否定されているのが分かる。つまりノックなど最初からなかったのであり、食堂にいた全員が「ノックの後手紙を発見した」という共通の嘘をついてたと思われる。つまり食堂にいる人物が全員結託してると言う事であり、事件の共犯関係を考える場合にも非常に重要だ。
【第一の晩の譲治、真里亞、楼座、朱志香、源次、蔵臼の殺害】
「譲治、朱志香、真里亞、楼座、源次の死体は、誰が見ても、一目で死亡が確認できる」
「死んだフリなど絶対にありえぬ、誰もが一目で死亡を確認できる死体であるわ。」
「譲治、朱志香、真里亞、楼座、源次の5人はちゃんと死んでるわよ。」←5日の24時の時点での赤字
「犠牲者は全員、他殺なりや。」
「全ての死体は、決して検死を誤らぬ」
「登場人物以外の死体は登場しない」
「右代宮夏妃は犯人ではない!」
「右代宮蔵臼は犯人ではない。そしてとっくに殺されてるわ。あんたに電話で声を聞かせた直後にね?」
「譲治は死後、遺体は一切、移動されていない!」
「朱志香は死後、遺体は一切、移動されていない!」
「真里亞は死後、遺体は一切、移動されていない!」
「楼座は死後、遺体は一切、移動されていない!」
「源次は死後、遺体は一切、移動されていない!」
「蔵臼は死後、遺体は一切、移動されていない!」
「よって、遺体発見後に遺体が消失することはありえないッ!!貴様の推理、遺体は金蔵が運び出したは、破綻する!」
第一の晩について、朝の発見時よりも前の部分については、本編中の内容の通り、夏妃以外には不可能なもので、なおかつ赤字で夏妃は犯人ではないと明言されてるので、その部分の赤字は全部省かせてもらう。
この第一の晩のゲストハウス部分だが、探偵であるヱリカは毛布をかけられ隠されている死体を一切検証していないのが分かる。現場で南條に検視結果を聞いてるだけであり、自分の目で死体を見てないのだ。これは主観が保障されている探偵が死体を見てない上に、赤字により死後遺体が動かされていないとされてる以上、この時点では生きていてその後フリーになった時に別の場所で殺害されたものと思われる。一同が結託して死体を見つけたと狂言殺人を演じているという事であり、ヱリカはそれを見抜けずうのみにしてしまった。
使用人室の源次については、ヱリカの封印が朝の時点まであったとされてるので、源次は朝の時点では生きていた。嘉音と熊沢が死んでいたと嘘を言ってるという事であり、死体が消えたのもゲストハウス同様に、後で犯人がフリーになった時に別の場所で殺したという事だ。ここも狂言の一貫だ。
蔵臼については、夏妃が電話で声を聞いた後に殺されたという事だが、夏妃が蔵臼の声を聞いた時に、電話を代わるのに手間取ってなにやらガサゴソしている様子が描写されている。EP5で親族会議の時に議事録を音声で録音していた「オーディオ」を使って録音された蔵臼の声だったのだろうと推測される。電話口で犯人の名前を叫ばれる可能性があり、実際に蔵臼に電話を代わったとは思えない。実際は夏妃にオーディオ録音の声を聞かせた後に、屋敷の外の森かどこかで殺したものと思われる。この蔵臼の殺人については、真犯人が秀吉殺害時に夏妃にクローゼットに隠れるよう命令するための脅迫用の布石であり、用がなくなった途端狂言殺人部分とは別に、すぐに殺したものと思われる。
【1F客室での秀吉の殺害】
夏妃の主観描写を見ていると、部屋に一人で入ってきた秀吉が突如何者かに襲われ、その後犯人が立1ページ目へ
ち去った様子もないのに他の者が集まってきており、その後ヱリカがまたもや秀吉の死体を確認せずに死体を移動させている。この部分も一連の狂言殺人の一貫であり、夏妃が聞いていたのは秀吉の演技だった。実際は殺されておらず、第一の晩同様その後犯人がフリーになった時に実際に殺したものと思われる。
ゲーム盤部分の解答は以上であり、全体として狂言殺人のため夏妃と蔵臼以外が全て結託して嘘をついてるという、あまりに共犯者が多いゲーム盤だと言える。しかし、ゲーム盤の謎よりもEP5は非常に重要な伏線が多いエピソードであり、うみねこ全体の真相とも関連のあるヒントが多く出ている。その部分の考察にいこう。
・本編中で碑文が解かれた場面
ヱリカと戦人が碑文を解き黄金を発見しているが、この時に非常に重要なセリフがいくつか出ている。まず、ラムダが碑文について「難易度が高い謎じゃないと意味が無い」と言っているが、これはヤスの目的と関連していてベアトが事件を起こすのは自身の2つの人格「紗音人格」と「ベアト人格」について、この2つの人格の恋について決着をつけるためであり、その目的のため事件を「手段」として使っている。可能性として事件で起きる確率が非常に低い「碑文が解かれる」と「事件の謎が解かれ、真相を暴かれる」の2つのどちらかが出る事が目的で、ラムダの言う「難易度が高い謎じゃないと意味が無い」というのは、どちらの人格の恋が成立するのか試すルーレットの目として、共に奇跡的確率で出る公平さが必要なためだ。「碑文が解かれる」と「事件の謎が解かれ、真相を暴かれる」は共にルーレットの目として出る確率は低く、お互いに公平さもある。
「碑文を誰かが解くことで、この子が何かを得ることはありません。」
「もともと黄金郷の黄金はこの子のもの。見つけさせる必要も、横取りする必要も、何もありません。」
「碑文の謎が解けても解けなくても、この子にとって得るものは何もありません。」
「碑文が解かれようと解かれなかろうと、ベアトが何かを得ることはない。」
この赤字だが、ベアトにとって碑文が解かれる事の意味はない。意味があるのは紗音人格にとってなのだ。本編中の説明に「魔女を天秤に見立てた時、片方には碑文の謎、片方には碑文殺人が乗る」「碑文殺人と碑文の謎の価値はベアトにとって同じもの」「じゃんけんと同じで、どちらに勝利が傾くかが目的」とある通り、ベアトにとって大事なのは碑文が解かれ紗音人格の恋が成立するか、碑文殺人の真相を解かれ、戦人が真相に至った結果、ベアトの恋が成立するのか、その結果が大事であるという意味だ。それを踏まえた上でEP5を見ると碑文を戦人が解いていて、頻繁に「よりによって戦人が」というセリフが出てくる。戦人との恋を成立させたいベアトにとって、戦人が碑文を解いて紗音人格と譲治との恋が成立するというのは何とも皮肉な結果である。
・謎の男
夏妃にかかって来る謎の男からの電話だが、最初は源次が繋いでいたのに、直接夏妃の部屋にかかってきていた場面がある。あれは内線により真犯人が電話をかけている事を表している。犯人は屋敷内にいる事の伏線だ。
・夏妃の赤ん坊とベアト
夏妃が故意か事故か、赤ん坊を使用人と一緒に突き落としてしまったという場面で、ベアトが「赤ん坊は妾が殺した!」と主張して殺人を自分のせいにしている場面がある。この描写はEP4までのベアトのゲームと同様、人間が犯人である事件を魔女の仕業とする事で人間を庇おうとしてるベアトの行為を表したものだ。なぜベアトは度々魔女を認めさせようとしてたのかは、戦人が実際の六軒島での真相で傷つかないようにするためと思われる。
・ベアトの気になるセリフ
実はEP5で非常に重要なセリフをベアトがさらっと言ってる部分がある。本編より抜粋するが「赤で19人目が許されずとも、そこに19人目を紛れ込ませるなど、妾ならば魔女ならば、造作もなくやってのけるがな」というものだ。以前にEP3で解説した在島人数の赤字にベアト人格のヤスが入ってない理由の伏線だと思われる。
・ロノウェの気になるセリフ
金蔵の部屋での論戦の後に、戦人について語るロノウェのセリフで、上と同様重要な伏線部分と思われるセリフが出る。ここも本編から抜粋する。「右代宮金蔵の破天荒を記せば、書斎の魔導書の数に負けぬ長い波乱の物語が描けるでしょうな。その次の当主(EP5で碑文を解いた戦人)の物語も記す価値が大いにありそうだ。いえいえ、もう記しておりますとも。それはもう長い長い物語に。ぷっくっくっく」この部分だが、うみねこの各EP1~8は作中作であり、98年の世界に存在しているワインボトルのノート片と八城十八による偽書であるという考え方の伏線となる部分だと思われる。EP6の98年世界に八城幾子が登場し、EP3~6が自分の作品であると言ってる場面もあり世界構造の考察で非常に重要になる伏線だ。
・黄金の真実
ベアトは戦人に真相に至って欲しくてゲーム盤を作った。戦人がベアトのゲーム盤の真相に至る事は約束を思い出す事でもあり、さらに戦人がベアトの思いを受け止めたのなら「ベアトと戦人の恋の成立」を意味するとも言えるだろうが、細かい話をすると、戦人が魔女のゲーム盤の真相に至る事というのは、魔女幻想が消え去る事とイコールでもある。戦人が真相に至るとベアトは魔女ではいられなくなってしまうのだ。しかし、もし戦人が本当の意味で真相に至ったのならば、EP3の後半の展開と同様に「ベアトを魔女と認める」と黄金の真実を発動する事でベアトは魔女のまま戦人と結ばれる事ができる。EP5の戦人が真相に至った時に戦人が黄金の輝きに包まれていた事を覚えているだろうか。ラムダが戦人の黄金の輝きに驚いていたし、ワルギリアも「その輝きこそが戦人君が本当の意味でベアトを理解した事の証」と語っている。戦人がベアトを黄金の真実で魔女だと認めてあげる行為というのは、「真実を魔法で優しく包み込む」という意味合いでもある。戦人が本当の意味で真相に至る事というのは、戦人が魔法の成り立ちを理解する事でもあるのだ。魔法を理解しないとベアトを救う事はできないだろう。この魔法の思想というのはEP4の真里亞の幸せのカケラを見つける魔法でもあり、EP8で戦人があのようなゲーム盤を作って縁寿を包み込もうとした魔法でもある。
・EP5の意味
EP5はEP4で戦意を失ってしまったベアトに代わり、ラムダデルタがゲームマスターとして登場する。ベルンカステルが人間側であり戦人は彼女達のゲーム盤の乗っ取り行為を嫌悪し、途中まで不参加を決めているが、後半のワルギリアのセリフにあるように、本来ベアトが望まないと2人は呼べないと語られている。ベアトが望んだからこそラムダとベルンがやって来たのであり、勝手にやってきたのではないのだ。EP5で大事なのは、EP4の一件でベアトは戦人が約束を忘れていた事によって、完全に戦意を失ってしまってる点だ。しかし、かといってベアトは何をするでもなく、庭園でぼーっとしている。ベアトは戦人が約束を忘れていた事に失望したものの、まだ「戦人が事件の真相に至り、自分の気持ちや約束の事を思い出してくれる」という希望を捨てきれず、その迷いがまだある状態だ。そして、戦人はベアトの出題を「ミステリーとして解ける問題」だとは認識せずに、未だに「未知の人物X」だとか「未知のトラップX」などというアンチファンタジーとして認識し、真剣にミステリーと信じてベアトの問題に向き合っていない。
つまり、EP5の状況は真剣にミステリーに向き合わない戦人と未練を捨てきれないベアトとの間で、ゲーム盤がこの先どんなに続こうと永遠に決着がつかない状況に陥っていた。ベアトがラムダとベルンの2人を呼んだのは、これに決着をつけ「互いを苛む拷問」を終わらせるためなのだ。
ラムダは予想通りに本来ならばベアトがやらないような事件を作ってきた。夏妃を事件の犯人にした話を作った理由は、戦人がベアトの出題をミステリーとして見ずに、ずっと「アンチファンタジー」として接してきた態度や甘えを断ち切るためだ。夏妃がああいった形で事件の犯人にされてしまったのを見て、戦人は事件をミステリーとして解釈し、別の真相を構築する必要に迫られた。しかし、戦人はそんな場面でもまだ「未知の人物X」というような手段で戦っていて、最終的にドラノールの剣によって貫かれ、死亡(ゲーム盤での思考停止の意味)してしまう。ラムダによりゲーム盤を追放された戦人のあの時の状態は、ノックスの十戒というミステリーの道しるべ的意味合いの剣で殺されていて、簡単に言うと「ミステリー的解釈で事件を解くという意思が無くなった状態」なのだ。上層世界のベアトにとって、戦人が約束を覚えていない場合、最後の望みだった「戦人が事件の真相に至った結果、約束を思い出してくれる」という可能性があの時完全になくなってしまったのだ。ベアトは戦人に事件の真相に至ってほしくて存在していたため、ベアトが存在する目的がなくなってしまい、その結果ベアトは戦人の事を完全にあきらめ死んでいった。それがあのEP5の場面の意味だ。
ベアトが死亡した後、戦人はノックスの十戒を頼りにベアトの事件を再度考察し、真相に至る。ほんのちょっとの差で戦人は間に合わなかった。戦人のあの絶叫は、事件の真相に至った結果、自分がヤスとの約束を完全に忘れていて、ヤスに拷問を課してたのが自分だったと知った。ベアトはそれに気づいて欲しくて、メッセージを事件に込め戦人に送っていた。その事に気付いた戦人の深い後悔がEP5から伝わってくる。戦人に真相を伝えられなかったベアトと、ベアトの真相に気付けなかった戦人の悲しいすれ違いの場面だ。ベアトは戦人が真相に至ってくれるまで待つという行為をやめ、ラムダとベルンのゲームで「魔女を認める」「人間犯人説で説明が付けられる」いずれかの決着を明確につけ、ドローゲームという今までの「逃げ」をやめ、どちらの勝利になっても結果を受け止めるという覚悟を決めたのだ。だが、結果は人間犯人説で戦人が思考停止し死亡、ベアトの気付いてほしかった真相にもベアトが生きてる間には辿りつけなかったのだ。
・EP5の意味を踏まえた世界構造の考察
上記のような長々としたEP5の意味を踏まえて、世界構造の部分も考えたい。このEP5は98年世界に存在する偽書であり、物語を六軒島から生還した十八が作っている。EP5でベアトが死んだ事と、戦人が真相に至った事は、98年世界で物語を作っている十八ともリンクしてるのではないだろうか。実際の六軒島での事件の真相の考察はEP7で詳細にやるが、EP7で語られた内容は真実であり実際の六軒島では碑文が解かれ、一族が殺し合いをし、戦人はヤスと逃げている。ヤスはボートから海に飛び込み自殺しているが、あの実際の六軒島では戦人にそもそもEP1~4のような事件の出題がされていない。それ以前に碑文が解かれて事件を中断しているのだ。つまり、戦人はあの六軒島の時点では真相に至っておらず、実際に真相に至ったのは記憶を失ってから幾子と一緒に暮らし、ワインボトルのノート片の内容を目にしてからだろう。十八は戦人の記憶を思い出しながら、世間で話題になっていたワインボトルのノート片を読み、事件を構成する要素などからEP5の戦人同様真相に至ったのだろう。しかし、EP5の戦人が間に合わなかったように、現実の十八が真相に至ったのも遅かった。六軒島での事件のかなり後に気付いたのだろう。それが反映されたのがEP5と考えられる。
・ワインボトルのノート片をヤスが海に投棄した意味
ヤスの動機部分は今まで断片的に語って来たが、彼女は事件を使って、自分の2つの人格の恋に決着をつけようとしていた。
「ベアトは、あなたに解いて欲しいと願って、解けるようにこのゲームを、……この物語の謎を生み出しました。」
「ベアトは、俺に解いて欲しいと願って、解けるようにこのゲームの謎を生み出した。」
この2つの赤字から分かるように、事件部分は戦人のために作ったものであり、事件の真相に至った結果、ベアト人格と戦人の恋が成立する奇跡を願ったものだ。しかし碑文が解かれ紗音人格と譲治との恋が成立した場合、ベアト人格は事件を起こす事が出来ず、戦人に何も伝える事が出来なくなる。ヤスがワインボトルを海に投げた理由は、奇跡的に何本かが誰かに拾われ、戦人が読んでくれて、真相に至ってくれる事を願ったものなのではないかと思われる。もちろん海に投げたワインボトルが誰かに拾われ、戦人にまで届く事は奇跡に近いだろう。しかし、ヤスはその奇跡を願ってボトルを投じたに違いない。ワインボトルのノート片の締めくくりの一文を思い出してほしい。
「これを読んだあなた。どうか真相を暴いてください。それだけが私の望みです。」
十八はヤスの願い通り、真相に至ったのだ。悲しいすれ違いの末に。
来自 豆瓣App