天使の歌声を持つヴォーカリストとして注目を集めるシンガー・ソングライター、湯川潮音のメジャー・ファースト・アルバム。彼女はとても不思議な声の持ち主だ。温かく、ふくよかで、包容力もあるが、決して甘くはない。ほんの少し毒と棘を潜ませた声色で、淡い悲しみが滲むファンタジーのような詞を歌う。とくに“お帰りなさい あなたのハーレムへ”と語りかける「HARLEM」では、淡々とした歌声が熱を帯びるたびに不安を掻き立てられ、ふと美声で舟人を惑わせては舟を沈めるローレライの伝説を思い出してしまった。そんな歌声を包むサウンドは、主に鈴木惣一朗の手によるもの。アイリッシュ・ハープ、マンドリン、オルガンなどの生音をいくつも重ね、静謐な空気を編み出している。さらにジェームス・イハも2曲のアレンジを手がけ、彼女の声に惚れ込んだ岸田繁、永積タカシも作曲で参加。その豪華な顔ぶれも、この歌声の前ではおおいに納得。果てしない可能性を秘めた才能の出現だ。
湯川潮音的短评(20)